相続税の申告をするときの特例の1つに「小規模宅地等の特例」があります。相続財産である土地について条件をクリアできると、土地の評価額を大きく減らせるという特例です。
この特例を利用できる土地が2つ以上ある場合には、すべての土地で利用することができるのでしょうか?解説します。
「小規模宅地等の特例」で土地の評価が2割に
相続税の特例、大きなものが2つあります。
1つは「配偶者の税額軽減」。配偶者が財産を相続した場合、1.6億円((法定相続分と比較して大きいほう)までは相続税がかからないという特例です。
これは配偶者だけに認められた特例。配偶者がいない相続の場合には利用できません。
で、もう1つは「小規模宅地等の特例」。これは土地の評価額を減らす特例。たとえば、自宅を親族が相続した場合に要件をクリアすると、土地の評価額は2割になるのです。
特例の対象になる土地 | どんな土地? | 限度面積 | 減額割合 |
---|---|---|---|
特定居住用宅地等 | 亡くなった方が住んでいた自宅の建っている土地 | 330㎡限度 | 80% |
特定事業用宅地等 | 個人事業で利用する建物が建っている土地。たとえば、亡くなった方が経営していたお店が建っている土地など | 400㎡限度 | 80% |
特定同族会社事業用宅地等 | 亡くなった方が経営していた会社が賃貸で利用していた土地 | 400㎡限度 | 80% |
貸付事業用宅地等 | 貸している駐車場やアパートの敷地など | 200㎡限度 | 50% |
たとえば、自宅の敷地で「小規模宅地等の特例」を利用する場合、限度面積は330㎡です。
自宅の敷地が250㎡で土地の評価額が4,000万円だとすると、条件をクリアすれば、20%の評価の800万円(=減額額4000万円×80%)が特例を利用したあとの評価額です。
自宅の敷地は、800万円の評価額をもとに相続税を計算すればいいわけですから、支払う相続税も減ります。そう考えると、利用できるかを検討しておいたほうがいいでしょう。
ただし、その利用状況は相続前の現状で判断します。…ということは、相続後になってからこの特例を受けたいからと要件をクリアさせよう整えても、時すでに遅しなのです。
だからこそ、生前のうちに検討しておきたいのです。
利用できる土地が複数ある場合には?
では「小規模宅地等の特例」を利用できる土地が複数あるときには、どうなるのでしょうか。
その場合、限度面積までは複数の土地で特例を利用できます。仮に自宅と駐車場の両方の土地で「小規模宅地等の特例」を使えるなら、下記の式で計算した面積が200㎡になるまでは併用できるのです。
限度面積:A ✕ 200/400 + B ✕ 200/330 + C ≦ 200㎡
A:特定事業用宅地等の地積
B:特定居住用宅地等の地積
C:貸付事業用宅地等の地積
※AとBの土地は特例の併用できるため、最大730㎡(=400㎡+330㎡)となります。
まぁ、これはややこしいので「ふぅん、そんな感じか」で大丈夫です。
複数の土地から選んで特例を利用できるとなると、減額割合が多い土地で優先して利用するほうが相続税は少なくなります。
じゃあ、どの土地で使うのが有利なのか?
その判断をする方法の1つが「㎡単価」での比較。それぞれの土地で減額面積と減額割合を計算すると次のようになります。
土地の減額割合
1.特定事業用 400×80%=320
2.特定居住用 330×80%=264
3.貸付事業用 200×50%=100
このうち、「1.特定事業用」と自宅「2.特定居住用」は、併用できるので調整の必要はありません。限度面積は最大730㎡(=400㎡+330㎡)にもなります。
仮に自宅(特定居住用宅地)と駐車場(貸付事業用)があり、どちらも特例を利用できる土地だとします。ここで前述した土地の減額割合。「2.特定居住用 330×80%=264」は「3.貸付事業用 200×50%=100」の2.64倍(264/100)です。
ということで、自宅(250㎡)の㎡単価が15万円の場合には、貸付事業用の土地の㎡単価が39.6万円(15万円✕2.64)を超える場合には、貸付事業用の土地から優先して「特例」を利用したほうが有利になります。
いっぽうで貸付事業用の土地の㎡単価が39.6万円未満なら自宅から「小規模宅地等の特例」を利用するのが有利ということになります。
最安がいいとは限らない
ということで、ここまで「小規模宅地等の特例」を複数の土地で利用できるというはなしをしてきました。
ただ、利用にあたっては注意点もあります。
妻(配偶者)が土地を相続する場合
自宅と駐車場の土地があり、妻が自宅の敷地を相続する場合、「小規模宅地等の特例」は、駐車場の土地を引き継ぐ相続人が利用したほうがいいケースもあります。
なぜなら、妻(配偶者)は、前述したように「配偶者の税額軽減」を利用でき、1.6億円までは相続税がかからないからです。妻は黙っていても「配偶者の税額軽減」が利用できるわけで自宅で「小規模宅地等の特例」を利用しても効果がありません。焼け石に水です。
その場合は、駐車場の土地で優先して特例を使うのがいいでしょう。
相続人の同意がいる
「小規模宅地等の特例」をどの土地で利用するか?は税金が最も少なくなる土地で利用しないといけないわけではなく、税理士が決めるものでもありません。
相続人同士の話合いで決めます。
特例を利用できる土地を相続する人全員が「その土地で利用していいよ」と同意している必要があるのです。(申告書に同意があったことを載せる欄があります。)
特例を使うと土地の評価額が下がり、つまりは相続税も少なくなります。さらに「小規模宅地等の特例」を利用には面積の限度があるというはなしをしました。
つまり、利用できる人とできない人が出てくる可能性があります。そうすると、特例を利用する土地を相続する人の相続税の支払いが相続する財産額に比べてかなり少なくなったことで、「納得いかない」という声も出てくる可能性もゼロではありません。
相続税は全体の財産をもとに計算し、それぞれの相続人が引き継いだ財産の割合で相続税をわりふるので、相続人全員に多少なりとも減税の効果はあります。ただ、もっとも効果を受けるのは、特例を利用する人。その理屈がわかっていないと不満につながる可能性があります。
そうなる可能性があるなら、事前に税理士に相談したほうがいいでしょうね。
税金の節税を優先しすぎると、もめることになるわけですから、全員が納得できるようにあえて有利でない選択をするケースもありえます。相続対策は「もめない」「払える」「節税」をバランスよく対策することです。
同意が必要だというのは、覚えておきましょう。
申告しないと利用できない
最後にこの「小規模宅地等の特例」は、ただ要件をクリアしているからと利用できるわけではありません。
相続税の申告をする必要があります。申告してはじめて利用できるわけです。ですから、「自宅で小規模宅地等の特例を利用できるから基礎控除以下になって申告しなくても大丈夫」と思われている方もいるかもしれませんが、そうではありません。
特例を利用するなら税務署へ意思表示が必要。申告することで意思表示をしたことになります。
ということで、「小規模宅地等の特例」は、将来支払うことになる相続税の対策としても、生前のうちに利用できるかを検討するのをおすすめします。
生前なら対策のしようがあります。
【編集後記】
昨日はオフ。家族で新規開拓のパン屋へ。どれも美味しくて当たりでした。また行こうかなと。その後はイーグルボウルで卓球をやってから知立神社。買い物をしてから家に戻ってきました。
【昨日の1日1新】
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知立神社